1.長野県東御市新張の田んぼ

 今夏、長野県東御市を訪れた。毎年夏に信州を訪れることにしている。例年は登山をし、高山植物を愛でるのが習慣だ。しかし今年は体を壊したこともあり、例年のような登山をできる状態ではなかった。そこで何気なく標高1000mのところの水田を訪れた。そこでは私の住む千葉県の都市部では見られない生物の豊富さを体験できた。

 

 この田んぼは湯の丸山の麓に位置していている。山からの湧水がとうとうと流れ、その水を引いている。水は冷たく澄んでいる。水温が低いため、流入部から3mほどの範囲は稲を植えておらず、さらに1mほどは稲の成長が貧弱である。国立公園(上信越国立公園)が近いため、農薬の使用制限があり、農薬の使用は少ない。これらの条件下で、この一帯の田んぼには多くの生物が観察できた。

 

 まずトンボ類はギンヤンマ、ハラビロトンボ、シオカラトンボ、ショウジョウトンボ、アキアカネ、クロイトトンボ、モートンイトトンボが見られた。それぞれ上手くすみ分けているようで、ギンヤンマは田んぼ1枚が1頭のテリトリーのようである。イネの間の上部にはハラビロトンボが、畦に近いところにはクロイトトンボ、クロイトトンボより少し内側にモートンイトトンボが、アキアカネは羽化のピークのようでいたるところに羽化殻を発見した。シオカラトンボ、ショウジョウトンボは水面の開けたところ、すなわち流入部に近いところに見られた。トンボだけでもなかなか見ごたえがある。

 水生昆虫はシマアメンボ、ナミアメンボ、コオイムシ、マツモムシ、ゲンゴロウの一種、コガムシ、ガムシの一種、ヘビトンボの幼虫、トビケラの仲間の幼虫が見られた。これだけの水生昆虫をもしビオトープで見られれば、そのビオトープは大成功である。

 その他の動物はカエルがアマガエル、トウキョウダルマガエル、淡水貝類はオオタニシ、甲殻類でサワガニ、またヒルも泳いでいた。

 野鳥も見られた。水田内には3羽のカルガモ、水田の上空にはツバメが盛んに飛んでいる。さらに上空にはトビが弧を描いている。

 いままで列記した生き物は25種にもなる。さらにハチや蝶などをいれると30種を超える。

 

 種類の多さにも驚いたが、私の地元と比べてみると、アメリカザリガニやウシガエルといった外来種が見られない。外来種が入り込んでいないことで生物の多様性が広がりを持っている。また田んぼの周りも自然が豊かであり、田んぼの生態系だけが孤立しているわけではない。この田んぼもそれなりに昔とは生物の種構成も違っているのだろうが、私には昔の田園の生物の姿を垣間見た気がした。

 

 都会に住む私にとって実に羨ましい田んぼの風景であるが、都心に近い田んぼでもより豊かな生物相にできないだろうか。現在、無農薬で稲作を試みる農家も少しずつ増えてきている。まずは脱・農薬からであろう。農薬を撒かなければ、それによって死ぬはずであった生物は生き残る。次に田んぼの周りの環境というと、水を引く河川がある。河川の環境も少しずつではあるが徐々に良くなって来ている。また稲刈り後に水を抜いてしまう田が増えたが、通年で田を利用する生物にとっては、水を抜かない方がよい。この他にも外来種を持ち込まない、増やさないなどいろいろな試みができるであろう。

 

 幸い環境について人々の関心も高まってきている。千葉県など都心に近いところでも、この長野県東御市の田んぼのように生物たちが増えてくれることを願いたい。